東大谷右尾根と三ノ窓尾根

toyama-rouzan2010-05-17

*[雪稜登攀]東大谷右尾根と三ノ窓尾根
日:5月2日〜4日
メンバ:リーダー:ボーダーT、アドバイザー:K、食糧:Y
コース:馬場島〜立山川〜東大谷右尾根〜クロユリのコル〜剣沢〜二股〜三ノ窓尾根〜三ノ窓〜池ノ谷〜馬場島
 
 







 当初、室堂から入山し、チンネを見物しながら三ノ窓尾根をゆっくり登ろうという話だった。でもただそれだけのために、長いアプローチを行くのはもったいない気がする。そこで、立山川から入って、東大谷の右尾根を辿って御前に登ってから剱沢に降りよう、ということになった。離れた二つの雪稜を行くという欲張りな計画、距離的にも、春の縦走としては、これまで歩いた中ではもっとも長い部類にはいる。悪場はそんなにはないだろうと予想されたが、双方とも自分にとっては未知の尾根だけに、楽しみ半分、不安が半分。

 今回のテーマは、登山寿命をいかに延ばすかということ。50台も半ばに迫ったメンバーが二人、あと何年バリエーションに挑戦できるか。自分としてはあと2年、もって3年が限度ではないかと考える。心肺能力、筋力、瞬発力、体力は日増しに衰えていく。怖いというイメージが先に立つ。そんな中で、いかに充実した山行を継続してはいくか。それには、やはり、山に入るしかなく、若い頃とはまた違った積極さが必要となる。また、一人で行こうなどとは、無理というか無謀な話で、その点、仲間となら、理想に近付けるチャンスも生まれてくるのではないかと思う。

 そして、今回のミュージックテーマは尾崎豊アンジェラ・アキ。登攀中にいつも頭の中で流れていた、叫んでいた。


5月2日 快晴 馬場島〜立山川〜東大谷〜右俣〜右尾根〜2200㍍CS
 前日、何が当たったのか一日中ひどい下痢。夜中も眠れず、結局一睡もせぬまま家を出ることになった。馬場島の駐車場は満杯。歩いているうちに、お腹は次第に収まっていった。この時期の立山川は初めて。目指す尾根がはるか遠くに見える。毛勝谷を過ぎる頃、10年くらい前に、夏に遡行したときのことを思い出す。ハイライトは高巻時に起こった。懸垂の途中、H君が荷物の重みでバランスを崩し、逆さまになった。そして、そのままの体勢で頭を下にしながら降りてきた。のちに、語り草となった逆さ懸垂。あのときの崖はこの辺りであったか。
景色を眺めながら、話しながらテクテク歩いていると、いつのまにか東大谷出合。広々とした気持ちのよい場所だ。思ったより早く到着。ここから見る剱は初めてなので新鮮に感じる。いくつもの尾根が上に伸びている。反対側にはテングズダンスホールから奥大日。谷に入り、ちょっと進むと目指す尾根が近付いてくる。右俣に入りさらに進み取付きを探す。末端からよりは、2つ先の支尾根を廻り込んだ辺りが良さそうと見当をつける。
緩やかな斜面から尾根に取付く。トレースはなく我々だけの世界だ。ただひたすら足を上げ、3日前に降った新雪ラッセルしながら前に進む。グズグズ、ゴボゴボ。主稜線に出てまもなく10㍍ほどのナイフエッジ、両側がスッパリと切れ落ちている。先も細い。ここはロープを出して、慎重に通過。結局、この尾根でロープを出したのはここ一箇所だけであった。無風快晴、360度の大パノラマを楽しみながら快適な雪稜を行く。14時頃から天場を探しながら先を伸ばす。まっ平らな絶好の候補地を通り過ぎ、もうワンピッチ。雪壁とまではいかないが急な斜面の手前、比較的傾斜が緩やかなピークを整地して、天場とした。
 今回の酒は300mlのウイスキーだけ。冬に2リットルの酒を持ち込んでバテバテになったのがひんしゅくを買い、今回は軽量化を計って、ビールもやめにした。だが、他の二人はビールをガッポリ。やいのやいの言われながらも、お情けを頂戴し、ご馳走になった。うまい!18時からカレーを食べ始め、19時半にはシュラフに潜り込んだ。

5月3日 快晴 2200㍍CS〜剱御前〜剱沢〜近藤岩〜三ノ窓雪渓〜三ノ窓尾根〜2200㍍CS
 5時出発。昨夜は爆睡した。山に来て、これほどよく眠れたのは記憶にない。体が軽い、気分もすっきり。いつもは眠りが浅く、起きてから、だるい気分で朝の支度をするのだが、今日は快調。山で寝れるとはこんなに気持ちがいいものなのか。当然、足も軽い。昨晩と今朝の食糧が減って、荷が軽くなったせいもあるが。
昨日、急な雪壁と見えたところはさほどでもなかった。雪の具合もちょうどよく、快適だ。ワンピッチ登ると、尾根もハイマツが混じるようになり、少しの岩場も出てきて、旅も終盤に差し掛かってきていることを知らせる。谷のど真ん中を行くこの尾根、左に剱、右に奥大日を従え、この歩きが永遠と続けばいいのにと、明らかにハイな気分。そんな思いに浸りながら攀じっていると、ふっと、別山尾根の稜線に出た。あっけない幕切れだった。これで第一幕の終わり。
剱沢に降り立ち、次の目標、三ノ窓尾根を目指す。長い、長い緩やかな下り。雪の上だから、足を前に差し出すだけで自然に下っていける。だが、登り返しとなると意外と辛い。ここを登り返すときは、たいていは日程を終えたあと、あるいは下山日となる。体力も消耗しつくし最後の頑張りとなるからだ。数年前、H君と来たときも辛かった。あの時は、赤谷山からの縦走を終え剱の山頂を踏んでから、早月尾根に向かうところ、なぜか別山尾根に迷い込んでしまった。ガスがかかり、ミゾレ混じりの雨風に叩かれながら、這うようにして下山口を探していて、気付いたときは平蔵のコルへと向かう梯子場だった。そのときはもう引き返す気力もなく、そのまま降りていって、コルから平蔵谷を下っていった。剱沢に降り立ち、御前乗越まではすぐだと思っていたのだが、そうではなかった。視界も効かず、雨風の中、寒さに震えながら登り返した。歩いても、歩いても小屋は見えてこない、結局この登り返しが山行中の核心部となった。ほうほうの体で小屋に辿り着いたときは、もうそれ以上歩けなくなっていた。
 閑話休題。剱沢で、登り返してきた一人の若者に声をかけたら、なんと直前に雑穀で知り合いとなったクライマー君だった。昨日源次郎尾根中間部でルートを見誤って、敗退してきたのだという。真砂沢に着いたのは夜の10時半だったとか。始点のない垂直の雪壁を下ってきたのは、それはそれですごいことだ。次にエールを交したのは、男女二人のパーティー。小窓尾根をやってきて、これから前剱東尾根を目指すのだという。若い二人は、はち切れんばかりの笑顔が印象的。目が生き生きと輝いている。我らが行く先を告げると、「またマイナーなー」と返された。真砂沢を過ぎたあたりで女性の単独行者と出会う。仙人山から下ってきたその人はデカザックにカメラの三脚を結わえている。この暑さの中、冬用のヤッケとフードで完全防備。日焼け防止も大変だ。
近藤岩付近は雪もビッシリ残り、なんなく対岸に渡れる。三ノ窓尾根はもうすぐ。三ノ窓雪渓に入ると、すぐに目指す尾根が見えてきた。進むうちにおのずと、尾根末端の丸山に向かうルートに導かれる。この丸山は仙人山付近も見渡せ、八ツ峰も眼前にあり、絶好のキャンプサイトである。以後ずーっと、八ツ峰と仙人山を目にしながら登行を続けこととなる。尾根に乗ったし、あとはただひたすら歩くだけ、と多寡をくくっていたが、これが大間違いだった。丸山から少し進むと、右側からのトレースと合流する。これまでトレースがなく、ゴボリ気味の雪質だっただけに大助かり。それにしてもこれはどこからのトレースなのかといぶかった。小窓からきたものなのか。トレースを辿り、一登りすると平坦な大地に。高度計は2100㍍付近を指しているが、地形状からは2200㍍の平坦地にも思える。テント場には適地なのだが、時間もまだ早いので先に進む。そこからすぐ、尾根の右側から乗越すようにしていくと、やや痩せた尾根となる。雪の状態としては最悪で、いつ足場が崩れてもおかしくない。ロープを出して通過することにした。ワンピッチ終えて、思い悩む。目標となるピークまでは全ピッチロープのべた張りで行かねばならず、あと2時間以上は見込まれる。あそこまでいって、果たしてテントを張る場所があるのか。先が読めない。明朝、雪の締った時間に行けば、いまよりマシではないか。そう考えると、一旦引き返し、さっきの台地まで戻るのがベストと判断した。
このテン場は最高、別天地。熊の岩が天国なら、ここは極楽。平の池の大地にテントが一つぽつねんとある。八ツ峰を行くパーティーが見える。テントの中でつまみを肴に、まったりとした時間を過ごす。ただ、心配なのは残りの500㍍。どんな雪稜が待っているのか、データが無いだけに不安も少し。

5月4日 晴れ時々曇り 2200㍍CS〜三ノ窓〜池ノ谷〜ゴルジュ〜馬場島
 夜中動物の気配を感じた。テントのすぐそばまで来ていたような気がする。また、いつものように眠れない夜を過ごす。昨日あんなによく眠れたのに、不思議だ。何がどう違うというのだ。雑炊をかき込み、4時50分に出発。
雪は予想していたほど締まってはいなかった。それでも、昨日の昼よりは少しはマシ。ロープを張りながら、ピッチを切って、着実に進む。先行者も同様なようで、ピッチの切り方がまるで同じ。昨日は厄介と思われた斜面も、近付いてみれば何とかなる。予想通り2時間かけて、登りきったピークに出てみて、ビックリ。小窓雪渓側の尾根の斜面を切り取ったところにテント跡があった。彼らもまた、ここから先が読めなかったのか、時間切れとなったのか。
雪の状態はあまり良くない。踏んだそばから崩れていく。それとも、春山とはこんなもんだったのだろうか。予想していた以上に難渋し、時間がかかっている。この地点より先はエスケープが見込めそうにもない。だが、予備の食糧もあるので、何とかなるだろうと、先に進むことにした。ここからもトレースに助けられた。それにしても、こんなマイナーなルートを行くのはどこのパーティーなのだろうか、もしかして地元のG会ではなかろうか、そんな考えが頭をよぎる。ロープを出すごとに確実に標高が上がっていく。チンネが次第に近付いてくる。左稜線を行くコールが聞こえる。最後と思しきピークを越えると、ようやく安全地帯となる。今日はいったい何ピッチロープを出したのだろうか。覚えがない。20ピッチ近くになるだろう。こんなべた張りは経験がない。
 三ノ窓までは緩やかな斜面が続く。途中先行者のテント跡があった。彼らはこの尾根で2泊したようだ。三ノ窓からは早い。一気に二股まで駆け下る。その先が気になっていた、ゴルジュ。初めて通ったが、うーん、なんとも言えない。上から降ってきた小岩石が散らばっている。いつこれに当たるとも限らない。ロシアンルーレットのような気分。降っては来ないだろうと何の根拠もない確信でさっさと通り過ぎた。白萩川に出てしまえば、もう安心。馬場島まではすぐそこだ。

 3日間で2つの雪稜をこなして来れて、大満足。疲労の度合いも少ない。一昨年から再び雪山に挑戦し始めて、少しずつ感触を取り戻しつつある。今回はある程度、自信にもなった。自分にとって成功のカギは、軽量化に努めたこと。一切の無駄を省いた(ビールまで省略したのは反省点)。今回のためにザックも新調したが、背負いやすくて正解だった。あと何回行けるかわからないが、機会があれば、また仲間とともに挑戦してみたい。自分らで行けるところがあるはずだ。(よういち)